
ストーリー
とても美しい人を見たことがある。
20年前、オレは傭兵として大陸を転々としていた。
ボウフラのように次々と湧いてくる民族紛争。
お陰で食い扶持(くいぶち)に困ることはなかったが、雄大な大自然を背景に、人間は一体なんてバカなことをしているのだろうと思いながらその日も銃を握っていた。
今日の作戦は山岳地帯。
山岳戦はオレ達の部隊のオハコだ。
オレの所属する部隊は資金が乏しく、戦闘車両を所有していなかったが、全員身体能力が高く、機動力には自信があった。
「うまいワインが手に入ったんだが、作戦が終わったらみんなで飲まないか。」
この男はいつもワインの話をする。
バカめ。もう勝った気でいるのか。
こういうのを死亡フラグというのだ。
オレはこの男とは違うと、気を引き締めながら敵が潜む密林へ足を踏み入れる。
3マイル程進んだ頃だろうか。
「・・・静かすぎる。」
オレは違和感を覚えた。塹壕ももぬけの殻だ。
ダダダダッ!!!
次の瞬間、背後からオレ達を嘲る(あざける)ようにマシンガンが火を噴くと、後ろを歩いていたワイン好きの男が頭を撃ち抜かれ倒れていた。
「ほら!言わんこっちゃない!!」
オレは弔ってやれない罪の意識を抑え込み、そいつのネームプレートを引きちぎりポケットに入れる。
仲間が次々に倒れていく。
すっかり囲まれてしまったオレと残り数名は白旗を挙げた。
捕虜となったオレたちは敵の村に着く。
両手を繋がれ、壁のない小屋にオレたち捕虜は集められた。
ひどい扱いだが、屋根があるだけ人道的だ。
果たして、傭兵のオレ達に捕虜交換の価値はあるのだろうか。
絶望するのはエネルギーを使うので、諦めに身を委ねると、いつの間にか眠っていた。
賑やかな声に目を覚ますと、焚火を囲んで兵士がパーティーをしていた。
昼間の奇襲阻止成功の祝賀パーティーだろうか。
よく見ると、見知った顔がいる。
どうやら、今日の作戦失敗はコイツのリークによるものだったようだ。
敵兵士はこれ見よがしに酒と料理を楽しむ。
しばらくオレたちはこの不毛なパーティーを見せつけられた。
焚火が落ち着く頃。
赤い一枚布に身を包む美しい女がみんなの前に現われた。
ドンチャン騒ぎをしていた兵士はグラスを置き、酒の代わりにゴクリと唾を飲む。
あたりは静まり返った。
女は胸に大きく息を取り込むと、アカペラでゆっくりと歌い始めた。
大地を包み込むような深い歌声・・・
いや、「歌」というカテゴリに閉じ込めてしまうと、それが無駄に矮小化されてしまう。
大地の波動、エネルギー放射、そんな曖昧で壮大な表現が合うかもしれない。
もちろん言葉は分からないが、愛に満ち溢れている。
彼女から発せられる豊かな倍音は、敵味方関係なくその場にいる人間の心を癒した。
ダダダダッ!!
一日に二度もマシンガンの嘲笑を耳にするとは。
しかし今度は味方の奇襲だった。
オレたちはなんとか救出された。
しかし、村は跡形もなく焼き払われたそうだ。
今思えば、敵兵はオレ達捕虜に彼女の歌声を聴かせるためにあの場所に拘留したのではないだろうか。
・・・平和への祈りを込めて。
この雄大な自然の中、同じ人間同士で一体何をやっているのだろう。あの歌声の素晴らしさは分かり合えるのに、どうしてお互いを分かり合えないのか。
その後、オレは故郷に帰り、もう銃を握ることをやめた。
あとがき
こんにちは。ヤスダックレコード店長です。
タイトルは、「同じ人間なのに・・」というメッセージを込めて「ヒューマン」となっています。
元々は女性の横顔とヘアスタイルをおもしろく表現できたらなと制作し始めたのですが、いろいろ付け加えていくうちに何やら壮大なテーマになってしまいました。


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