
ストーリー
『アテンション響子』は誰でも気軽に入れると評判の占い部屋。
でも、一つだけ鉄の決まりがあった。それは・・・
“リピーターお断り”
「次の方どうぞ。」
響子が呼ぶと、黒いカーテンをくぐり、中年の男が部屋に入ってきた。
「どうぞお座りください。」
男は響子と向かい合わせのシングルソファーに腰を落とすと口を開いた。
「実はわたし・・・」
「あぁ、言わなくても分かりますよ。あなたは今人生の大きな分岐点に立っておられますね。」
「どうして分かったんです?!」
「このピアノルーレットは全てお見通し。では詳し占って差し上げますので回して頂けますか?」
「はい。」
男は“ピアノルーレット”と呼ばれるドーナツ状の鍵盤の縁に手を掛け、時計回りにゆっくりと回した。
円速度が徐々に緩み、止まるか止まらないかくらいに差し掛かると、
ジャーン!!
ドーナツの中央にいた響子はおもむろに両手で鍵盤を叩き、何かしらの和音を響かせた。
「はい、出ました。」
「!っ」
「中音域で2つの音がとても不安定な響きになっています。でも、低音が下支えすることによって、それらは最高音と絶妙な調和を生み出しています。」
「はぁ・・・。つまりどうゆことでしょうか。」
「あなたの人生は広角で見ればとても美しいハーモニーを奏でています。でもあなたは不安定な響きだけにフォーカスしてしまい、その恩恵に気付けていないのです。あなたの気付かないところで、あなたを支えてくれている人がたくさんるのも知らずに。」
「そうなんですか・・・。」
「あなたの人生は、あなたご自身でちゃんと調律されています。だからどの方向に進もうとあなたの奏でるハーモニーが耳障りなノイズになることはありません。答えはあなたが既に知っているはず。自信を持って進んでください。」
「はい!そうですよね!勇気が湧いてきました!ありがとうございました!」
そう言って男は入口とは別の扉から部屋を出ていった。
「次の方どうぞ。」
「はい。」
次は若い母親と見受けられる女性がカーテンをくぐり、ソファーに腰を落とす。
「実はわたし・・・」
「あぁ、言わなくても分かりますよ。あなたは今人生の大きな分岐点にたっておられますね。」
響子は悪びれるわけでもなく、前の客と全く同じ言葉を投げかける。
「どうして分かったんです?」
客はテンプレート通りの返しをする。
響子は別に詐欺師ではない。
ただ響子は知っていた。
この時代の、この国の人々の悩みは、突き詰めるとだいたい同じことであることを。
そして、誰もが背中を押してもらいたがってることを。
響子は背中を押されたがっている人の背中を押す。
ただそれだけだ。
ただし有料だが。
アテンション響子は誰でも気軽に入れると評判の占い部屋。
でも、一つだけ決まりがあった。それは・・・
“リピーターお断り”
あとがき
この作品のタイトル『リディアン・ラディアン』について。
“リディアン”は音楽用語で音階の一種。
透き通ったような旋律が特徴です。
画中の響子はCリディアンスケールを弾いています。
“ラディアン”は、角度の単位。
高校数学ぶりで、よく覚えていたと自分で感心しています。
「リディアン」と「ラディアン」、ゴロが良かったのでくっつけました。
ちょっとだけ動くアニメ
ジャケダケレコード
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