リディアン・ラディアン (2021)

ストーリー

『アテンション響子』は誰でも気軽に入れると評判の占い部屋。
でも、一つだけ鉄の決まりがあった。それは・・・
“リピーターお断り”

「次の方どうぞ。」

響子が呼ぶと、黒いカーテンをくぐり、中年の男が部屋に入ってきた。

「どうぞお座りください。」

男は響子と向かい合わせのシングルソファーに腰を掛けると口を開いた。

「実はわたし・・・」

「あぁ、言わなくても分かりますよ。あなたは今人生の大きな分岐点に立っておられますね。」

「どうして分かったんです?!」

「このピアノルーレットは全てお見通し。では詳し占って差し上げますので回して頂けますか?」

「はい。」

男は“ピアノルーレット”と呼ばれるドーナツ状の鍵盤の縁に手を掛け、時計回りにゆっくりと回した。
円速度が徐々に緩み、止まるか止まらないかくらいに差し掛かると、

ジャーン!!

ドーナツの中央にいた響子はおもむろに両手で鍵盤を叩き、何かしらの和音を響かせた。

「はい、出ました。」

「!っ」

「中音域で2つの音がとても不安定な響きになっています。でも、低音が下支えすることによって、それらは最高音と絶妙な調和を生み出しています。」

「はぁ。どゆことでしょうか。」
「あなたの人生は広角で見ればとても美しいハーモニーを奏でています。でもあなたは不安定な響きだけにフォーカスしてしまい、その恩恵に気付けていないのです。あなたの気付かないところで、あなたを支えてくれている人がたくさんるのも知らずに。」

「そうなんですか・・・。」

「あなたの人生は、あなたご自身でちゃんと調律されています。だからどの方向に進もうと不協和音が生み出すことはありません。答えはあなたが既に知っているはず。自信を持って進んでください。」

「はい!そうですよね!勇気が湧いてきました!ありがとうございました!」

そう言って男は入口とは別の扉から部屋を出ていった。

「次の方どうぞ。」
「実はわたし・・・」
「あぁ、言わなくても分かりますよ。あなたは今人生の大きな分岐点にたっておられますね。」
「どうして分かったんです?」

響子は知っていた。
この時代の、この国の人々の悩みは、突き詰めるとだいたい同じことであることを。
そして、誰もが背中を押してもらいたがってることを。

アテンション響子は誰でも気軽に入れると評判の占い部屋。
でも、一つだけ決まりがあった。それは・・・
“リピーターお断り”

あとがき

こんにちは。ヤスダックレコード店長です。
響子は別に詐欺師ではありません。
背中を押されたがっている人の背中を押す。
それだけです。有料ですが。

この作品のタイトル『リディアン・ラディアン』について。
“リディアン”は音楽用語で音階の一種。
透き通ったような旋律が特徴です。
画中の響子はCリディアンスケールを弾いています。
“ラディアン”は、角度の単位。
高校数学ぶりで、よく覚えていたと自分で感心しています。
「リディアン」と「ラディアン」、ゴロが良かったのでくっつけました。

ちょっとだけ動くアニメ 

>>Youtube #short

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