ストーリー
「んー、凶器も犯人も何もわからん。」
探偵はタバコをくゆらせながら頭をもたげ、足を机に投げ出していた。
机の上には今回の案件、資産家殺人事件の資料が散乱している。
「このポンコツ探偵め。」
クロアリは呟いた。
どこで呟いているかというと、ポンコツ探偵の足の裏。
ポンコツ探偵が踏んだガムにくっついてしまったのだ。
「まぁ、ここまで資料を集めたことについては褒めてやるがな」
身動きが取れないくせに偉そうだ。
クロアリは投げ出された足の裏から机の上に散乱した資料には目を通していた。
「オレの推理はこうだ。
犯人はあのかわいいメイドちゃん。
オレも信じたくはないがな。
実は彼女、8年前のハドソン川ナイトクルーズ船転覆事故の船長の娘だ。
あの事故を起こしたのは今回殺害されたタヌキジジイの会社の一つ。
警察は事故原因を、溺死した船長の安全管理の不行き届きと断定。
死人に口ナシとはよく言ったもので罪はすべて彼女の父親に着せられた。
無念だったろうよ。。
タヌキジジイと警察との癒着によるもみ消し疑惑も囁かれたが、次から次へとスキャンダルが起きるこの世の中だ。
今じゃこの事件を覚えてるやつは誰もいねぇ。
真相はとっくにハドソン川にに流されて今頃大西洋の大海原ってわけさ。
5年後、彼女はメイドとして素知らぬ顔でこの屋敷に潜り込んだ。
タヌキジジイの首を虎視眈々と狙う日々。
そうとも知らず、気立てのいいメイドちゃんをさぞお気に入りだったろうよ。
そして時が熟した昨夜、タヌキジジイと二人っきりになったのを見計らって、鈍器で殴打。
だが、事件現場からは凶器は一切見つかっていない。
しかしオレは見た。
彼女のローファーのカカトの鈍い光沢を。
おそらくカカトに鉛板を貼り合わせてある。
タップダンスを踊るためではなさそうだ。
ということで凶器はメイドのローファーだ。
あの出血量だ。メイドのローファーを調べれば血痕の一つでも出てくるだろうよ。
あとはオレの名推理をどうやってポンコツ探偵に伝えるか、だな。」
クロアリはお尻から蟻酸を出して順番に6本の脚のカギ爪に塗り、ネバネバを無効化しながらなんとかトリモチ地獄から抜け出した。
そして強靭な顎で灰皿から吸い殻を引っぱりだし、並べて文字を作る。
”MAID HEEL(メイド かかと)”
「これでポンコツ探偵にも伝わるだろう。ポンコツなヤツだったが数日間でも世話になった礼だ。」
ほどなくしてポンコツ探偵は吸い殻の文字を見つける。
「あれ?灰皿に入れなかったっけ。ん?あ、そうだ!!」
ポンコツ探偵は何かに気付いたようだ。
「明日は可燃ごみの日だ!」
「探偵なんてやめてしまえ!」