
ストーリー
「姐さん、本当にここで撮るんですか?!すごい人ですよ!」
ここは冬の東京タワー前。現在18時45分。
「ここじゃなきゃだめなの!ここでこの映画は感動のクライマックスを迎えるのよ!」
好奇心旺盛なマキは目下、映画撮影がマイブーム。
おじいちゃんの形見の8ミリカメラを発見したのがきっかけだ。
今日も監督だか女優だかよく分からないいでたちで満足げにキャメラを回す。
「一度言い出すと聞かないからなこの人・・」
助手の小西くんはぼやく。
「文句言わないの。それよりシャボン玉の準備はできてるの?」
主人公の恋人が実は未来人で、それを告白し、未来へと帰っていく
・・感動のクライマックスシーンである。
シャボン玉は予算ナシ映画監督の肝いりファンタジー演出だ。
現在18時56分。
「そろそろね、一発勝負よ!よーい、アクション!」
カタカタカタカタっ。軽快にキャメラは回る。
「あなた、何言ってるの?」
「君は昨日の事故で命を落とす筈だったんだ。でも何とかぼくがそれを阻止した。それによって歴史は変わり、50年後の人類滅亡は免れたんだ。」
「そんなこと信じられるわけないじゃない!私を愛してるって言ってくれたのは演技だったってこと!?」
「すまない、だがミッションを完了した今、無駄にこの時代に留まってしまえば、変える必要のない過去にまで干渉し、デスティニーパラドックスを起こしてしまう。だからここで君とはお別れなんだ。さようなら。」
「フーーーーっ!フーーーーっ!フーーーー!」
シリアスなシーンと裏腹に小西くんはシャボン玉の大量生産で酸欠寸前。
薄れゆく意識の中、「走馬灯」という自分主演の映画を観ていると、遠くから人間の皮を被った悪魔の声が聞こえる。
「小西くん、シャボン玉全然足りないわ!もっとがんばって!」
不本意にも悪魔の声で意識を取り戻す。
「もう限界っすーっ!フーーーーっ!」
と言いながらもシャボン液で手をベタベタにしながら小西くんはまた頑張る。
カタカタカタカタっ。小西くんの走馬灯のようにキャメラは軽快に回る。
「そんなの絶対に許さないんだから!あっ、ちょっと待ちなさ・・・」
恋人が未来に帰るのを引き止めようとする主人公。
「はい、小西くんライト!ライト!でもシャボン玉はやめないで!」
悪魔の皮を被った悪魔から再び指示が飛ぶ。
小西くんは至近距離で懐中電灯でキャメラのレンズを照らした。
もちろんシャボン玉はやめないで。
光で一瞬画面が真っ白になり、未来人が姿を消す演出だ。
どうしても一瞬懐中電灯が映り込んでしまうが・・・。
小西くんのがんばりの甲斐あって無事未来人消失。
シャボン玉に華やかな都会の電飾が溶け込み、余韻を惜しむかのようにフワフワ漂っている。
「ここからよ。」
マキはつぶやく。
「3・・・2・・・1・・・」
19時ジャスト。
東京タワーのライトアップが点灯した。
「おぉぉ、、」
瀕死だった小西くんも手を止めクライマックスにふさわしい幻想的な光景にポカンと口をあけて感動していた。
「はい、カット!さすがわたし。完璧ね。」
マキの自己肯定感がまた肥大化した。
「ま、確認するまでもないけれど、一応撮れダカとやらをチェックしておこうかしら。」
マキはキャメラを撮影モードから再生モードに切替え、得意げにファインダーを覗く。
「あれ?真っ暗。切替スイッチこれじゃなかったかしら。」
首をかしげながらキャメラ側面に配置された使い方の分からないスイッチ群を指でなぞる。
「姐さん、レンズキャップ・・・つけっぱなしです・・・。」
「ん?ありゃ・・・。えーっと、はい、テイク2いきまーす。」
「お断りします!!」
こだわりポイント
この作品はカラーを線のみで入れています。
シャボン玉やマキの輪郭線はキツめの原色を使っていますが、まったくうるさくありません。差し色として画面を品よく華やいでくれています。

あとは、カメラのメカメカしたところや、ファー、髪の毛のツヤはデジタルツールならではのおもしろい表現ができました。



黄色を少し版ズレさせたり、全体にもやもやフィルターをかけたりして、レトロ感を演出しています。


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