いろいろ学ぶことが多すぎた16年間。忘れないためにも文字にしました!

家族グールバナー最終回
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第1話 通夜
第2話 父とオレ
第3話 お母さんとオレ
第4話 お母さんと父
第5話 家族グール

元気な頃のお母さんの人格ってどこに行ってしまったんだろう。
そんな事をよく考える。

16年前のあの日に消滅してしまったのだろうか。
いや、元気な頃のお母さんの人格はずっとお母さんの中にいたに違いない。
でも、『後遺症』というツタのようなものに巻き付かれて表に出てこれないのだ。
だから深層にいる元気な頃のお母さんの人格はきっと泣いていたに違いない。
「ごめんねごめんね」って泣いていたに違いない。

なぜか分からないのだが、亡くなった直後からお母さんの人格は元気だったころにすり替わっている。
あんなに苦労した思い出が、急に薄くなっている。
二人の姉に聞いても不思議なことに同じ感覚だという。
ただ辛い記憶を揉み消したいだけなのだろうか。
お母さん、あなたの子供は全員親不孝者のようです。ごめんなさい。
化けて出るのは歓迎します!

でも実際、死んだあとはどちらの人格なんだろう。
仏教ではリセットされて皆おなじ仏になるらしいのだが、なんかそれは飲み込めない。
死とともにあの強烈な個性も死んでしまうなんて悲しすぎる。
オレの願望としては、元気な頃のお母さんに戻って沢山絵を描いて、あっちでできた仲間のために着物を縫って、いつもみんなを笑わせる、そんな生活を送りながら生まれ変わりまでの時間を楽しんでもらいたい。

想像力の豊かなオレは、もう一つよく考えることがある。
16年前、お母さんが倒れていなかったらどうなっていたか。

恐らくろくなことになっていない。

父は相変わらずお母さんを怒りのはけ口にし続けただろうし、オレは相変わらず勘当状態だっただろう。
で、父もオレも姉達から見放されていたんじゃないのかな。
それでもお母さんはそれを受け入れるパワーを持っていたので寺も家族もなんとか回せてしまう。
でも、絆が脆弱なので家族は遠心力に耐えられず、いずれ分解していたに違いない。

考えただけでゾッとする。

それを覚って倒れたのかな。
かなりの荒療治だが、家族の中心である自分が抜けることでしか皆がくっつけないことを知っていたのかもしれない。
自分がグール(のり)となり、家族をくっつけて、完全に固まったのを見届けて死んでいったのだろう。
自分の人生を犠牲にしてでも、家族を守る。
あの人ならやりかねない。

オレにはたまたま、苦労を分かち合える姉たちがいて、たまたま頼りになる義兄が二人もいて、暗い気持ちを和らげてくれる甥っ子姪っ子がいて、たまたま何も言わずに苦労を一人で背負いこんでくれる父がいて。
母が与えたこの人生最大級の困難を乗り越える装備は、どうやら整っていたようだ。
でも神さまは本当に意地悪で、必要最低限の装備しか与えてくれず、人はそれを駆使して困難を乗り越えて行かなくてはならない。
ただ、それに気づけずにいると、救いのない呪われた人生だと錯覚してしまう。
時間はかかってしまったが、気づけて本当によかった。

オレは16年前のお母さんが倒れる直前が家族にとって一番幸せな時期だと思っていた。
でも、お母さんがくっつけてくれたこのいびつな家族と共に、お互いの役割を果たし、尊重しあいながら生きられる今が一番幸せかもしれない。

——結局、一睡もできぬまま通夜が明ける。
午前中からの怒涛の葬式が終わり、火葬場でお母さんを見送るとようやく一息。

よく見ると二人の姉は加藤家の家紋入りの喪服を着ていた。
嫁入りの時にお母さんが仕立てたようだ。
親の葬式で着るように実家の家紋の入った喪服を持たせる風習がこの国にはあるらしい。

ん?
二人の家紋が違う。

下の姉の家紋が逆さまだ!

どんだけ手の込んだボケだっ!
拾いきれるかっ!!

おわり